
A&Dホロンホールディングスには、アドバンテストと競合する半導体関連事業があります。
「アドバンテスト」と聞くと、AI半導体などを検査する「テスター」を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、両社が競うのは、半導体の回路をつくるための原版「フォトマスク」を測定・観察する装置の領域です。
具体的には、フォトマスクのパターン寸法を測るCD-SEMと、欠陥を詳しく観察・分析するレビューSEM。ホロンとアドバンテストの公式製品情報を並べると、この二つで用途が重なっていることが分かります。
同じ半導体関連でも、測る対象と使われる工程が違えば、需要を左右する要因も変わります。
今回は、この競合関係を入り口に、A&Dホロンの半導体事業を整理します。
A&Dホロンはどんな会社か
7745 A&Dホロンホールディングスのグループでは、半導体関連事業、計測・計量機器事業、医療・健康機器事業を展開しています。
半導体関連事業では、ホロンがフォトマスクの寸法測定・欠陥レビュー装置を手掛ける一方、エー・アンド・デイは電子銃や電子ビーム露光装置向けの基幹ユニットなどを提供しています。
つまり、半導体関連セグメント全体が、ホロンのCD-SEM事業と一致するわけではありません。装置そのものに加え、電子ビームを発生・制御する技術も持つグループです。
ホロンの設立は1985年で、翌1986年には電子ビーム微小寸法測定装置を発表しています。2018年にエー・アンド・デイの連結子会社となり、2022年の経営統合を経て現在の体制になりました。
半導体計測の歴史は、生成AIブームよりもはるかに長い会社です。

フォトマスクとは、半導体の回路を転写するための原版
半導体は、シリコンの円盤であるウェハの上に、微細な構造を何層もつくって製造します。
その過程で使われるのが、光を利用してパターンを転写する「フォトリソグラフィ」です。フォトマスクは、この転写に使う回路パターンの原版にあたります。
マスクメーカーなどが設計データを基にパターンを形成し、寸法測定や欠陥検査、必要な修正を行う。その後、半導体工場の露光装置で使用され、ウェハ上へのパターン形成に使われます。

原版の寸法や形状に問題があれば、転写されるパターンにも影響します。そのため、ウェハに回路をつくる前に、マスクの品質を管理する必要があります。
先端半導体では、波長13.5nmの極端紫外線を使うEUV露光も利用されています。微細な回路を形成する技術が進むほど、その原版を正しくつくり、確認する技術も必要になります。
寸法測定、欠陥検査、欠陥レビューは何が違うのか
ここは、今回の競合関係を理解するうえで大切な部分です。
「フォトマスクの検査装置」という言い方には、役割の異なる装置が含まれます。大まかには、次のように分けられます。
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寸法測定:パターンの線幅や間隔、輪郭などを測り、狙った寸法・形状になっているか確認する。
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欠陥検査:マスクを調べ、異物やパターンの異常など、欠陥の候補を検出する。
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欠陥レビュー:検出された箇所などを詳しく観察し、欠陥の形状や種類、成分を調べる。
CD-SEMは、Critical Dimension Scanning Electron Microscopeの略です。電子ビームで微細な構造を観察する走査電子顕微鏡、SEMを、重要なパターン寸法の測定に用いる装置です。
一方、レビューSEMでは、別の検査装置が検出した欠陥の位置情報を受け取り、その場所を詳しく調べる使い方があります。
実際に、ホロンのLEXa-20には光学式欠陥検査装置との座標連携機能があり、アドバンテストのE5620も、マスク検査システムから取り込んだ欠陥位置を自動で画像化すると説明されています。
ホロン「[LEXa-20]
アドバンテスト「[MASK DR-SEM E5620]
したがって、今回の競合領域は「フォトマスクの寸法計測・欠陥レビュー」と表現すると正確です。
マスク全面から欠陥を探す装置と、見つかった欠陥を詳しく調べる装置では、担う役割が異なります。
アドバンテストのテスターとは、測る対象が違う
アドバンテストの主力である半導体テスターは、半導体に電気信号を与え、設計どおりに動作するか、必要な性能を満たしているかを試験します。
使われるのは、ウェハ上に回路ができた後のウェハテストや、パッケージに組み立てた後の最終テストなどです。量産前の設計・評価でも使用されます。

これに対し、マスク用CD-SEMが測るのは、原版に形成されたパターンです。
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半導体テスター:半導体の機能や電気的な特性を試験する。
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マスク用CD-SEM:フォトマスク上のパターン寸法や輪郭を測定する。
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マスク用レビューSEM:フォトマスク上の欠陥を詳しく観察・分析する。
アドバンテストは、この両方を持っています。2025年の統合報告書では、V93000などのテストシステムと、E3660などのMetrology / SEMを分けて紹介し、後者を「サービス他」の事業に位置付けています。
A&Dホロンと比較するときに注目したい相手は、このマスク計測・レビューの製品群です。
HSS-1000とE3660。最新製品も同じ課題に向き合っている
両社の代表的な製品を並べると、競合関係が具体的になります。
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フォトマスクの寸法測定:ホロンのHSS-1000、ZXと、アドバンテストのE3660、E3650。
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フォトマスクの欠陥レビュー:ホロンのLEXa-20と、アドバンテストのE5620。
特に注目したいのが、2025年に両社が発表した新しいCD-SEMです。
ホロンのHSS-1000は、2025年11月27日にリリースが発表されました。同社は、1.6nmノード以降のEUVマスク製造に対応する装置と説明しています。従来機ZXから、寸法測定精度や画像品質、測定速度などを改善した製品です。

一方のアドバンテストは、同年9月9日にE3660の販売開始を発表しました。2nmノード以降のマスク製造を対象とし、従来機E3650より測長再現性を20%以上改善したとしています。また、曲線を含むパターンの測定機能には、研究機関imecとの協力成果が反映されています。
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ここで「1.6nm対応だから2nm対応より優れている」とは判断できません。これらは対象となる半導体プロセスの世代を示す表記で、装置の測定誤差をそのまま示す数字ではないためです。
比較するには、同じ試料・条件での再現性、測定速度、画像品質、試料へのダメージ、顧客工程との相性などを確認する必要があります。
公表資料から分かるのは、両社がともに、先端マスクを高精度かつ効率よく測るという課題に取り組んでいることです。
ホロンの技術は、どこに特徴があるのか
電子顕微鏡で細かなものを見ると聞くと、拡大して鮮明な画像を撮る技術を想像します。しかし、量産工程の計測では、それに加えて、同じ場所を繰り返し安定して測れることが必要です。
電子ビームを当てることで試料が帯電すると、画像が乱れることがあります。また、レジストのような材料では、観察そのものが形状に影響する場合があります。
HSS-1000では、こうした問題に対して、複数の技術を組み合わせています。
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収差補正:電子ビームを細く集束させ、高精細な画像を得る。
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低い入射エネルギーでの観察:レジストの収縮など、試料への影響を抑える。
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低真空とVUV光による帯電対策:画像の劣化を抑え、観察を安定させる。
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輪郭抽出:曲線を含むパターンのエッジ位置を測る。
これらに、高速なビーム制御やステージ、画像処理を組み合わせています。
A&Dホロングループは、電子光学だけでなく、高安定電源や高速ビーム制御、画像解析も技術基盤として紹介しています。
私は、ホロンの競争力を考えるときには、こうした技術を組み合わせて、顧客が日常的に使える計測装置に仕上げる力に注目したいと思います。高い分解能に加え、測定の安定性と生産性まで成立させる必要があるからです。
需要を考える鍵は、マスクの高度化と顧客の設備投資
A&Dホロンを「アドバンテストの競合」とだけ捉えると、AI半導体の生産が増えれば、同じように売上が伸びると考えてしまいそうです。
しかし、マスク計測装置の需要を見るときは、半導体の生産数量に加えて、新しい設計や製造プロセスに対応するマスクの開発・生産、計測内容の高度化、顧客の設備更新を考える必要があります。
例えば、パターンが細かく複雑になり、確認すべき箇所が増えると、高速で再現性の高い計測が求められます。曲線を使うカービリニア・パターンでは、線幅だけでなく輪郭の把握も重要になります。アドバンテストも、E3660の開発背景として、測定ポイントの増加と曲線パターンへの対応を挙げています。
EUVや、さらに高い解像性能を目指すHigh-NA EUVは、こうした要求を高める背景の一つです。ただし、需要が装置の受注になる時期は、顧客の開発計画や設備投資に左右されます。
実際に、最新の2027年3月期第1四半期、2026年4〜6月のA&Dホロンの半導体関連事業は、厳しい業績でした。
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売上高:8億9,700万円。前年同期比68.9%減。
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営業損失:1億2,200万円。前年同期は10億400万円の営業利益。
会社は、需要調整の継続と売上計上案件の減少を説明しています。一方、海外の新規案件や引き合いには改善の兆しがあるとしています。
![A&Dホロンホールディングス「[2027年3月期 第1四半期決算短信]](/assets/media/42-22e029235719cbcc.png)
この数字は、ホロン単独やCD-SEM単独ではなく、半導体関連セグメント全体のものです。それでも、半導体の技術進化への期待と、足元の装置需要が同じタイミングで動くとは限らないことが分かります。
最新動向 計測技術を欠陥修正にも応用
2026年9月10日には、ホロンの新しい研究成果も発表されました。
CD-SEMで培った収差補正SEMの技術を、フォトマスクの欠陥修正装置に応用する取り組みです。会社は、修正精度や加工形状、修正後の光学特性などを評価した研究成果を、国際学会で発表したとしています。
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細かな構造を正確に観察するための電子ビーム技術を、必要な場所を精密に加工する用途へ広げようとしているわけです。
ただし、この発表は研究開発に関するもので、会社は2027年3月期の業績への影響はないと明記しています。既存の計測・レビュー装置に続く、新たな事業の可能性として見ておきたい動きです。
おわりに
A&Dホロンとアドバンテストの接点は、フォトマスクの寸法測定と欠陥レビューにあります。
半導体を電気的に試験するテスターとは、対象も役割も異なります。この違いを押さえることで、両社の競合関係と、A&Dホロンの半導体事業が何に支えられているのかが見えてきます。
今後注目したいのは、先端マスク向けの新製品が顧客に採用され、継続的な受注・売上につながるか。そして、長年蓄積してきた電子ビーム技術を、欠陥修正などの隣接分野にも広げられるかです。
半導体の原版を、正確に測り、詳しく調べる。その専門性からA&Dホロンを見ると、テスター市場とは異なる半導体装置ビジネスの姿が浮かび上がります。
資料確認日:2026年9月14日。発行日の記載がない製品・技術ページは、同日時点の掲載内容を参照しました。製品性能は各社の公表内容に基づき、競争力や需要に関する評価は筆者の考察です。

![A&Dホロンホールディングス「[フォトマスク欠陥修正技術の研究成果発表について]](/assets/media/43-2907505721c0a233.png)
![A&Dホロンホールディングス「[フォトマスク欠陥修正技術の研究成果発表について]](/assets/media/44-87f622d87e929a6b.png)