
AIデータセンターの進化を支える技術として、CPOという言葉を目にする機会が増えました。
CPOは、情報を処理する半導体のすぐ近くに、電気と光を変換する機能を配置する技術です。通信の高速化と省電力化が期待されていますが、その実現には、光を伝える細いファイバを高い精度で接続する技術も欠かせません。
数十本の光ファイバを、限られた空間で、光の損失を抑えながらつなぐ。しかも、それを工場で繰り返し安定して行う。
今回は、この「つなぐ技術」に注目し、古河電工の光ファイバ融着接続機と、CPO時代における技術的な価値を整理します。
古河電工は、光ファイバと接続技術を育ててきた会社
古河電気工業、証券コード5801は、電線や金属材料に加え、光ファイバ、光接続部品、光半導体などを展開する会社です。
光通信との関わりは長く、同社の技術史には、1974年の光ファイバケーブルのフィールド試験が記されています。光ファイバが通信インフラとして普及する初期から、技術を積み上げてきました。
光ファイバは、つくるだけでは通信に使えません。ケーブルを延長したり、光部品と組み合わせたりするために、接続する技術が必要です。そこで発展してきたのが、融着接続機です。
なお、2025年4月には光ファイバ・ケーブル関連事業の新ブランド「Lightera(ライテラ)」が始動しました。国内向けの案内では、融着接続機を含む対象製品はグループ会社のライテラジャパンが製造し、古河電工が販売すると説明されています。
古河電工[光ファイバ・ケーブル関連製品 新ブランド『Lightera』について]
光ファイバ融着接続機とは何か
一般的な通信用光ファイバは、中心の「コア」と、その周囲の「クラッド」からなるガラスの構造を持ち、外側を樹脂で保護しています。一般的なガラス部分の直径は125μm、つまり0.125mmほどです。

この細いファイバ同士を接続する装置が、光ファイバ融着接続機です。本稿では、メーカーの表記に合わせて「融着接続機」と呼びます。

基本的な作業は、次のように進みます。
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ファイバ端部の被覆を取り除き、汚れを落とす。
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専用の工具で端面を精密に切断する。
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向かい合うファイバの位置を合わせ、放電の熱で融かして一体化する。
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接続部を保護し、必要な品質確認を行う。
接続位置がずれると、光の一部が相手側へうまく伝わらず、接続損失が生じます。したがって、融着接続機には、位置を合わせる精度と、適切に加熱する制御が求められます。
端面の切り方や清掃状態も結果に影響するため、装置本体だけで品質が決まるわけではありません。前処理から接続、補強までを安定させることが大切です。
![古河電工「[光ファイバの接続]](/assets/media/50-a4fbed7f39430983.png)
CPOによって、接続技術に何が求められるのか
従来の光通信機器では、電気信号を処理する半導体と、機器の前面などにある光トランシーバの間を、基板上の電気配線でつないでいました。
CPOでは、光へ変換する機能を半導体の近くへ移し、この電気配線を短くします。高速になるほど厳しくなる電気信号の伝送条件を緩和し、通信部分の消費電力を抑える考え方です。

実用化も進んでいます。NVIDIAは2026年6月、CPOを採用したSpectrum-X Ethernet Photonicsが本格生産に入ったと発表しました。
一方、光を扱う場所が半導体へ近づくほど、その周辺でのファイバの配置、接続、保護、交換をどう実現するかが重要になります。
ここで、二つの接続を分けて考える必要があります。
ファイバ同士の接続と、光半導体への接続は別工程 融着接続機が主に担うのは、光ファイバ同士をつなぐ工程です。 光ファイバから光半導体へ光を受け渡す部分では、光結合の構造や精密な位置合わせ、固定、コネクタなどの技術が必要になります。 CPOの普及によって接続技術の重要性は高まりますが、どの工程で融着を使うかは製品設計によって異なります。
ポイント
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ファイバ同士の接続と、光半導体への接続は別工程 融着接続機が主に担うのは、光ファイバ同士をつなぐ工程
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光ファイバから光半導体へ光を受け渡す部分では、光結合の構造や精密な位置合わせ、固定、コネクタなどの技術が必要。
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CPOの普及によって接続技術の重要性は高まりますが、どの工程で融着を使うかは製品設計によって異なる。
古河電工自身も、CPO向けに小型で着脱可能な光コネクタを開発しています。融着接続機と光コネクタは、それぞれ異なる接続の課題に応える製品です。
多数のファイバを扱うほど、精度と歩留まりが効いてくる
多数のファイバを狭い場所に収める場合、単純に接続本数が増えるだけではありません。
作業できる空間が限られ、ファイバを大きく曲げる余裕も小さくなります。接続部を保護する部材や、余ったファイバを収める場所も必要です。
さらに、接続箇所が増えるほど、一か所ごとの品質が製品全体の良品率に影響します。
例えば、32か所の接続があり、それぞれが独立に99%の確率で初回合格すると仮定すると、全32か所が一度で合格する確率は約72.5%です。一か所当たりの合格率が99.9%になれば、約96.8%まで上がります。
これは実際の製品の歩留まりを示す数字ではなく、接続品質の積み重ねを説明するための計算です。
この節の要点
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製造技術の価値は、接続できることから、安定して量産できることへ
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多数の接続を含む製品では、低損失に加えて、接続結果のばらつき、作業時間、再作業の少なさ、接続後の強度が重要になる
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一か所の品質改善が、製品全体の歩留まりや製造コストに効く可能性がある
この観点から見ると、融着接続機の競争力は、位置合わせ、加熱制御、ファイバの扱いやすさを組み合わせ、毎回安定した接続を実現する力にあると考えられます。
技術的な強み① 多心一括接続とケーブルを組み合わせる
古河電工の多心融着接続機「S124M16」は、最大16心のテープ状光ファイバを接続できます。
ファイバを所定の位置に並べるV溝基板を交換することで、200μmのローラブルリボンにも対応します。ローラブルリボンは、複数のファイバを間欠的に接着し、ケーブル内へ高密度に収めやすくした構造です。
同社は2021年、16心ローラブルリボンを使うケーブルと、S124M16、関連工具を同時に開発しました。会社発表では、従来の12心リボンと比べ、ケーブル1本当たりの融着作業時間を25%削減できるとしています。
古河電工[16心リボンを使用した超多心光ケーブルおよび多心融着接続機を開発]
注目したいのは、ケーブルの構造と、それを接続する装置・工具を一緒に設計できる点です。ケーブルを高密度化しても、接続に時間がかかれば施工全体の負担は増えてしまいます。その課題を製品群として解決しています。
ただし、S124M16は通信工事用として掲載されている製品です。
この実績は多心接続の生産性を示すものであり、CPOパッケージへ16本を直接取り付ける装置という意味ではありません。
技術的な強み② 短いファイバと小さな接続部を扱える
CPOとの関係を考えるうえでは、光部品の製造用に展開する「S185シリーズ」も注目したい製品です。
例えば「S185HS」は、最短3mmの切断長での接続に対応し、短い補強スリーブや、接続部を再び樹脂で覆うリコートによって、接続部を小型化できると説明されています。接続後の強度低下を軽減する機構も備えています。
ここでいう3mmは、融着前に準備するファイバの切断長に関する仕様です。完成した接続部全体が3mmに収まるという意味ではありません。
現行カタログには、対応機種で10mmの補強スリーブを使用する例も掲載されています。また、装置を小型化することで、融着作業に必要なファイバの余長を短くできるとしています。
この「短い状態でも接続できる」「接続した後も場所を取りにくい」という性能には、製造上の意味があります。
光部品から引き出したファイバを長く残さずに済めば、部品の小型化や配線の整理に役立ちます。再接続のために切り戻す場合も、必要な余長が短いほど作業の選択肢を残しやすくなります。
高密度な光実装を考えるときには、接続損失と合わせて、こうした機械的な扱いやすさも評価したいところです。
技術的な強み③ 光の向きや、複雑な内部構造に対応する
光ファイバの種類によっては、中心位置を合わせるだけでは十分ではありません。
例えば偏波保持ファイバは、光の振動方向に関係する「偏波」の状態を保つためのファイバです。接続時には、その軸の向きも合わせる必要があります。
S185シリーズの「S185PM」は、この偏波面の位置合わせに対応しています。
CPOとの接点もあります。Lighteraは2025年4月、CPO向けの偏波保持ファイバ「Micro Connect」を発表しました。レーザ光源とチップをつなぐ用途を想定し、精密な形状と、狭い場所での曲げやすさを重視しています。
これはS185PMの特定顧客への採用を示す発表ではありませんが、グループがCPO向けファイバと、偏波保持ファイバを接続する装置の両方を持つことが分かります。
さらに「S185EVROF」は、ファイバの断面を観察する機構と、3本の電極による放電機構を組み合わせています。左右の端面画像を重ねて位置合わせを支援し、各電極間を順番に放電させる方式で、より低温の放電にも対応します。
古河電工「[高性能光ファイバ融着接続機 S185EVROF]
対象となるのは、一本のファイバ内に複数のコアを持つマルチコアファイバや、空洞部分に光を通すホローコアファイバなどです。前者は内部の向きを合わせること、後者は熱で繊細な構造を崩さないことが課題になります。
2026年3月のOFCでも、LighteraはS185シリーズを基盤にした、これらのファイバ向けの画像観察、回転位置合わせ、放電制御技術を紹介しています。
Lightera[Advanced HCF and MCF Fusion Splicing Technologies at OFC 2026]
なお、現行カタログでは、該当機種のマルチコア・ホローコア接続は端面を見ながらの手動調心とされています。次世代ファイバに対応する技術と、完全自動での量産能力は分けて評価する必要があります。(出典:前掲「S185シリーズ」カタログ、3ページ)
多心リボンは「複数本のファイバを並べたもの」、マルチコアファイバは「一本の中に複数の光の通り道があるもの」です。また、CPOだから必ずマルチコアやホローコアを使うわけではありません。
これらは、光接続の難しさが増す方向に対して、同社がどのような技術を蓄積しているかを示す例と捉えています。
CPOとの直接的な接点は、小型多心コネクタにもある
古河電工は2025年3月、CPO向けの小型12心光コネクタを発表しています。
公表された主な特徴は、次のとおりです。
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接続部の面積は、MPOコネクタとの比較で6分の1。
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接続損失は0.5dB以下。
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基板実装時の260℃のリフローに耐える。
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磁石を使い、接続しやすい構造を採用。
同発表では、より多心の構造への対応と、40心コネクタの開発も進めていると説明しています。40心品については、この発表時点では開発段階です。
「多数のファイバを、小さな面積で、低損失につなぐ」という課題が、製品開発の具体的な目標になっていることが分かります。
直近の2026年9月14日には、LighteraがSENKOのSN-MT光コネクタ技術のライセンス契約に基づき、高密度接続製品を拡充することも発表しました。こちらは、小型多心コネクタの製造・供給体制を広げる動きです。
古河電工グループの強みは、ファイバそのもの、接続部品、接続するための装置を持つことにあります。
材料の性質、接続時の条件、完成品の取り扱いを横断して考えられることが、高密度な光接続を実用的な製品へ仕上げるうえでの競争力につながると考えます。
技術的な強みを、事業の成長としてどう見るか
融着接続機には、フジクラや住友電工などの競合があります。
フジクラは2026年3月に新しい多心融着接続機「100R」を発表し、住友電工も16心対応機に位置合わせや放電条件の最適化技術を搭載しています。多心接続や作業性の改善は、各社が競争している領域です。
フジクラ[新型多心融着接続機100Rの販売開始に関する発表]
住友電工[16-Fiber Ribbon Fusion Splicer]
そのため、古河電工の強みを評価する際も、「多心接続ができる」という一点だけで判断することはできません。
用途に応じた低損失、接続後の強度、短い余長への対応、特殊ファイバへの対応、作業の再現性を、顧客の工程でどれだけ実現できるかが重要です。
足元の事業環境を見ると、2027年3月期第1四半期、つまり2026年4〜6月の光ソリューション事業は、売上高600億円、営業利益92億円でした。会社はデータセンター関連製品などの売上増を増益要因に挙げています。
![古河電工「[2027年3月期第1四半期決算プレゼンテーション資料]](/assets/media/52-914fc4ba4a6dae95.png)
ただし、この数字は事業全体のもので、融着接続機単独の実績ではありません。今回確認した資料では、融着接続機のCPO向け売上高や、特定のCPO製造ラインへの採用規模は把握できませんでした。
ポイント
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接続箇所が増えても、装置の販売台数が同じ割合で増えるとは限らない
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融着接続機は、繰り返し使う設備です。需要は接続本数だけでなく、顧客の生産能力増強、既存設備の稼働率、作業速度、更新需要によって変わる
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CPO向けの部品需要と、それを製造する装置への投資は、分けて確認したい
今後は、次のような開示に注目したいと考えています。
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光部品の製造工程で、同社の融着接続機の採用が広がるか。
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接続の小型化や自動化が、顧客の生産性改善につながるか。
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CPO向け接続部品の開発が、量産採用と継続出荷へ進むか。
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高付加価値な製品の拡販が、売上だけでなく利益にも反映されるか。
おわりに
CPOを調べると、光半導体やレーザの性能に加え、それらを実際につないで製品にする技術の重要性が見えてきます。
多数の細いファイバを、短い時間で、低損失に、壊れにくく接続する。さらに、接続部を小さくし、複雑なファイバにも対応する。古河電工の融着接続機には、こうした製造現場の課題に応えてきた技術が詰まっています。
光を使う範囲が広がり、実装密度が高まるほど、「つなぐ工程」で解決すべき課題も増えていきます。長年の光通信技術を、その新しい課題に生かせるか。そこに、古河電工を追いかける面白さがあると感じます。
