AI半導体の話題では、GPUやメモリの性能に注目が集まります。しかし、高性能なチップを製品として動かすには、それを載せる基板にも高い技術が必要です。
その基板材料で長年にわたり存在感を示してきたのが、三菱ガス化学、証券コード4182のBT材料です。
同社によると、2025年度、つまり2026年3月期のBT材料売上高は過去最高となりました。さらに2026年度は、AIサーバー関連でGPU向けBGA基板への本格採用を見込むと説明しています。

なぜ、この材料が半導体の進化とともに使われ続けているのでしょうか。まずは、BT材料を理解するための前提となる「銅張積層板」から整理します。
銅張積層板とは、配線をつくる前の基板材料
電子機器の内部には、電子部品が並んだ板が入っています。これが一般にプリント基板と呼ばれるものです。
基板には、部品を支える役割に加えて、必要な場所に電気を流す配線と、電気が流れてはいけない場所を隔てる絶縁の役割があります。日本電子回路工業会も、プリント配線板を、絶縁基板の表面や内部に部品間を接続する導体パターンを形成した板として説明しています。

その配線を形成する前の材料の一つが、銅張積層板です。英語ではCopper Clad Laminate、略してCCLと呼びます。
ガラス布を使うタイプなら、構成は次のように整理できます。
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・銅箔:電気を流す配線のもとになる。
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樹脂:電気を絶縁し、材料同士を結び付ける。
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ガラスクロス:ガラス繊維を織った布で、基板の骨格を担う。
製造では、まずガラスクロスに樹脂を含ませ、乾燥させて半硬化状態のシートにします。これが「プリプレグ」です。さらに、プリプレグと銅箔を重ね、熱と圧力を加えて一体化すると銅張積層板になります。


三菱ガス化学のBT材料も、主にこの銅張積層板とプリプレグの形で製造・販売されています。(出典:三菱ガス化学「[電子材料〈BT材料〉事業説明会](https://www.mgc.co.jp/ir/files/210113.pdf)」、2021年1月13日、10〜11ページ)
つまり、BT材料の事業を理解するには、樹脂の性能だけでなく、それを使ってどのような板やシートをつくれるかを見る必要があります。
BT樹脂は、半導体基板の樹脂化を支えた材料
BTは、ビスマレイミド・トリアジンの略です。三菱ガス化学が独自に開発した、熱を加えることで硬化する樹脂の一種です。
同社の技術紹介によると、BT樹脂を開発したのは1976年。当時、高性能半導体のパッケージ基板には、高価なセラミックが広く使われていました。
そこでBT樹脂は、半導体用途に必要な耐熱性や電気特性を備えながら、コストと加工のしやすさを両立する選択肢となりました。1985年には半導体パッケージ用の積層板に採用され、1990年代に普及が進んだとされています。
ここでの意義は、高性能な材料をつくったことに加え、半導体を大量につくり、広く普及させるための材料として成立させたことにあります。
なお、BT樹脂とBT積層板は同じものではありません。BT樹脂は構成材料であり、BT積層板は樹脂の配合、ガラスクロス、銅箔、積層工程などを組み合わせて完成する製品です。この違いが、技術優位性を考えるうえで大切になります。

BT材料が支えるのは、チップと電子機器をつなぐ基板
パソコンのマザーボードと、半導体パッケージ基板も区別しておきたいところです。
マザーボードは、CPUやメモリなどの部品を載せる、電子機器側の大きな基板です。一方、パッケージ基板は、半導体チップのすぐ下で、細かな端子と電子機器側の配線をつなぐ役割を担います。
三菱ガス化学のBT材料の主な事業領域は、このパッケージ基板向けです。同社が材料を供給し、基板メーカーが回路を形成、その後の組み立て工程でチップなどと組み合わされ、半導体パッケージになります。
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チップに近い場所で、細かな配線と多数の接続を支える。だからこそ、材料のわずかな変形や絶縁性の違いが、製品の信頼性に影響します。
技術優位性① 熱に耐え、基板の反りを抑える
半導体パッケージは、製造時の加熱や、動作時の発熱にさらされます。
このとき、シリコン、銅、樹脂などは、それぞれ異なる割合で膨張・収縮します。その違いが応力や反りを生み、接続部分の不具合につながることがあります。
したがって、材料には「熱で劣化しにくいこと」と「熱による寸法変化を抑えること」の両方が求められます。
三菱ガス化学は、低熱膨張、低熱収縮、高い剛性などを組み合わせたBT材料を展開しています。さらに、低熱膨張ガラスを用いる製品や、吸湿後の耐熱性を重視する製品も用意しています。
注目したいのは、樹脂とガラスクロスを組み合わせて、用途に合う特性をつくり込んでいる点です。
薄いパッケージ、大きなパッケージ、高温にさらされるパッケージでは、求められる条件が異なります。用途ごとの要求に応える配合と構成を持つことが、材料メーカーの強みになります。
技術優位性② 反りにくさと加工しやすさを両立する
基板材料は、完成品の性能が良ければ、それだけで採用されるわけではありません。穴を開け、配線を形成し、何層にも重ねる製造工程を、安定して通せる必要があります。
三菱ガス化学が2024年に発表した次世代材料「HL832RS/GHPL-830RS」は、この点が分かりやすい例です。
同社は、この材料で低反り性、メカニカル加工性、平坦性を両立したと説明しています。同製品は第20回JPCA賞を受賞しました。
[次世代低反りBTレジン積層板材料のJPCA賞受賞について]
背景には、複数のチップを組み合わせるチップレットなどの普及に伴う、パッケージの大型化があります。大きな基板でも反りを抑え、そのうえで加工しやすく、表面の平坦性も確保する。こうした複数の条件を満たす材料が必要になります。
私は、この「複数の性能を同時に成立させる力」に、BT材料の技術的な価値が表れていると考えます。基板メーカーにとっては、最終製品の信頼性と、製造時の歩留まりの両方に関わるためです。
技術優位性③ 電気特性と製造工程にも対応する
高速な信号を扱う基板では、信号を伝える際の損失も問題になります。
この分野でも、単に損失の小さい樹脂を選べばよいわけではありません。耐熱性、寸法安定性、銅箔との接着性なども必要です。
三菱ガス化学の低伝送損失BT材料では、誘電特性を改善しながら、耐熱性や低熱膨張性、銅箔との接着強度を確保しています。また、従来のBT材料と同様の工程で基板を製造できると説明しています。
既存の製造工程との相性を保ちつつ、必要な性能を引き上げることには、顧客側の導入負担を抑える意味があります。
2026年6月の展示会出展資料でも、同社はAI半導体向けの低熱膨張材料に加え、薄葉材料、低伝送損失材料を紹介しています。BT材料は、一つの固定された配合ではなく、用途に応じて改良され続けている製品群と捉えると理解しやすくなります。
技術優位性④ 顧客と積み上げた開発経験が次の採用につながる
三菱ガス化学は、2026年の統合報告書で、サブストレート基板材料における同社BT樹脂のシェアを約40%、世界トップとしています。これは同社推定であり、銅張積層板市場全体のシェアを意味する数字ではありません。
同社が強みとして挙げるのは、分子設計、樹脂合成・配合、生産技術に加え、顧客の回路設計や製造工程まで踏み込む技術支援です。過去のデータを活用し、新製品開発の初期から相談を受ける関係が、次の材料開発につながると説明しています。

この仕組みを考えると、長年の採用実績には二つの意味があります。
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顧客にとっては、品質や加工条件を理解した材料を使える。
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材料メーカーにとっては、次世代製品の課題を早い段階で把握できる。
長く使われてきた実績が、次の改良に必要な情報をもたらす。その情報を材料設計に反映できれば、次世代でも採用されやすくなります。
BT材料の競争力は、樹脂そのものの特性に、こうした開発経験が重なっている点にあると考えます。
ABFとはどう違うのか
半導体基板材料では、味の素のABFもよく知られています。
ABFは、基板の配線層を積み上げる際に使う、フィルム状の層間絶縁材料です。レーザー加工や銅めっきによって微細な配線を形成するための材料として使われます。

一方、銅張積層板は、パッケージ基板の中心となるコア層などに使われます。コアの表裏に絶縁層と配線を積み重ねる構造では、BT系のコア材料とABFが同じ基板内で使われることもあります。
したがって、「BTかABFか」という製品名だけの比較では、使われる場所の違いを見落とします。
ただし、三菱ガス化学自身も「BTCOPPER」などのビルドアップ材料を展開しています。銅張積層板とビルドアップ材料を分け、どの層をどの材料が担うのかを見る必要があります。

(出典:三菱ガス化学「[電子材料事業説明会](https://www.mgc.co.jp/ir/files/2410022.pdf)」、2024年10月2日、18ページ)
最新動向 AI向けの需要拡大とBGA向け採用の進展
2026年8月7日の決算説明会では、AIサーバー向けメモリ需要を背景に、BT材料は全グレードで好調に推移していると説明されました。BGA向けの超低熱膨張グレードも、採用が広がっています。
ただし、同社は現在の主戦場をCSPと説明しています。CSPは、チップの大きさに近い小型パッケージを指す呼称です。GPUなどに使われるBGA向け材料では、これから販売を広げる段階にあります。
同時に、低熱膨張ガラスクロスの調達制約が、拡販のペースを抑える可能性も示しています。代替材の評価や調達先の多様化を進めているものの、足元の需要には一時的な在庫確保も含まれる可能性があるとしています。
この状況は、BT材料が複合材料であることともつながります。優れた樹脂を持っていても、組み合わせるガラスクロスを必要な量だけ確保できなければ、製品供給は増やせません。
生産設備については、2025年11月にタイ拠点の増設工事完了を発表しました。増強したのはタイ拠点の能力で、従来の約2倍です。日本とタイの二拠点で供給する体制を強化しています。
技術優位性は、競争の中で更新され続ける
半導体パッケージ基板材料には、競合企業も存在します。
例えばレゾナックは、2025年2月に大型パッケージ向けの低熱膨張銅張積層板を発表しました。反りの抑制と、温度変化に伴うクラックの低減に取り組んでいます。
[次世代半導体パッケージ向け低熱膨張銅張積層板の開発]
そのため、三菱ガス化学の技術優位性は、すべての用途で性能が最上位という意味では捉えない方がよいでしょう。
評価したいのは、独自の樹脂設計を出発点に、反り、加工性、電気特性、量産時の品質という複数の課題に対応し、採用実績を重ねてきたことです。現在進めているBGA向けの採用拡大は、その力を新しい用途でも発揮できるかを確かめる動きといえます。
おわりに
BT材料を調べていくと、半導体を支える「板」にも、多くの技術が詰まっていることが分かります。
三菱ガス化学の強みは、用途に合わせて樹脂を設計し、ガラスクロスや銅箔と組み合わせ、顧客が安定して加工できる材料へ仕上げる力にあります。
セラミックから樹脂への転換を支えた材料が、いまはAI半導体の大型化や高密度化に応えようとしている。BT材料の面白さは、長い歴史の中で蓄積した技術が、次の世代の課題につながっている点だと感じます。


